第6話 ― 怒りの査定:評価と嘘と“神Excel” ―

「評価は“結果”であって、“真実”ではない」
「けど、それでボーナスも昇進も決まるのよ」
「そうやって、嘘の上に会社は成り立っていくのね……」

それは、労務管理ツールの中に眠るもう一つの地獄。


「“神Excel”……?」

滝沢が首を傾げながら、投影された画面を見る。
管理部の一室。松永京子がホワイトボードに並べたのは、ひとつの巨大な表計算ファイルだった。

「正式名称は“全社統合評価算出用フォーマットVer.16”。社員の評価、実績、勤務時間、資格取得、勤怠状況、上司コメント……全部ここに集約されてるわ」

「データ管理的には、地獄ですね。見たくもない」

斎藤恵理がモニターの左端を指差す。

「この“総合評価”欄……自動計算式のくせに、“手入力された数値”が混ざってる」

「……誰かが直接、評価を操作してる?」

福田笑加が言葉を引き取る。

「そーいうこと♡ つまり、操作してんのは“誰か”。で、それを誰も気づかないレベルでやってるのがヤバいの♡」

松永の指先が止まった。

「問題は、改ざんされた評価が“人事考課”に直結していること。そして、操作した痕跡がログに残ってない」

「てことは、システムの裏側から“改ざんしてるヤツ”がいるってことやな……」

美代子が炎を込めて呟く。

「“データ”じゃない。これは“怨念”や。評価されへん悔しさ、なかったことにされる怒り……それが憑いてる」

キョンの声が、松永の内で冷たく響いた。

『感じる。このExcelの中に、何かが棲みついてるわ。“評価”という名の業(カルマ)が、データの海に巣を作ってる』


午後9時。

評価データが集約されている本社サーバールーム。
滝沢のセキュリティ解除によって、特別に管理部一同が入室を許された。

「……こんな時間に、こんな場所に来るなんて。若い頃を思い出しますね」

高畑知花子が苦笑まじりに言う。

「今の方がよほど修羅場ですよ。幽霊も魍魎もいますし」

「あと、上司もね♡」

福田が肩をすくめた瞬間――
サーバー内のアクセスランプが、突然一斉に“赤”に点滅を始めた。

「来たッ!!」

画面の中に、巨大なExcelファイルのような“顔”が浮かび上がる。
無数のセルが歪み、関数の文字列が蛇のように蠢いて、声を発する。

『評価スル……再計算……偏差値調整……予算内査定……ムダナ実績ハ削除……』

「やっぱり来たか、オバケExcel……!」

「姫姉様、構えます!」

五人の鬼たちが、即座に鬼化する。

氷、炎、雷、そして双子の補佐陣――その力が部屋を包む。

「目標、“ファイルシェア領域”内部! 本体は中央の“計算式セル”!」

「エリリン、式の解析いける?」

「構文式“=IFERROR(IF(AND(実績<>0,評価<60),削除,””)”を検出……!」

「つまり、“60点以下は実績ごと消してんじゃねーか!!”」

美代子が吠えた瞬間、炎が走る。

ミヨの拳が、実績の“行”に炎を叩き込む。

一方で、キョンが全体を凍らせてループ式を封じ込め、ガーコが雷で“リンク式”を破壊していく。

『繰り返ス……評価調整……業績係数補正……偏差指数操作……』

「うっさいわぁあああああ!!!」

賀津子が電撃を最大出力で放つ。

「雷撃式・評価基盤崩壊(イージス・ブレイク)!」

構文が一斉に崩れ、サーバー画面にエラー表示が踊る。

『#REF! #VALUE! #DIV/0!』

エリリンの声が重なる。

「今です! 本体セルを上書きします!」

エミリンが飛び込み、中央セルに“真の評価”を入力する。

=「命は評価できない」

その瞬間、ファイルが白く発光し、画面全体が静かに閉じた。


翌朝。

評価シートのレイアウトは完全に修正され、誰の“操作”も入れられない構造になっていた。
“実績のある者”が、正しく評価される。
“数字を盛った者”の列は、ただ静かに非表示になっていた。

松永京子は静かにつぶやく。

「評価は、数字だけじゃない。努力や誠実さは、見えなくても積み上がるのよ」

高畑がコーヒーを差し出す。

「それでも、見えないと意味がない。だから、あなたたちが必要なのね」

「ええ、私たち鬼は……“見えない声”を拾うためにいる」


【To Be Continued…】