第5話 ― 業務委託地獄:下請けと幽霊会社と紙の神 ―

「この契約、どこから来たんですか?」
「あれ? あれは……誰の承認だったっけ……?」
「いや、でもちゃんと稟議は通ってるはず……どこかで……」

大日産業、技術部会議室。
混乱の種は、日常の会話に溶け込むようにして始まる。

担当者不明の業務委託。
内容が不明瞭なまま毎月数十万が支払われる委託費。
その会社に電話をかけても、誰も出ない。
登記簿は残っている。だが、実体がない。

まさに――幽霊会社


午後、管理部・臨時作戦会議室。

松永京子はホワイトボードの前でペンを手に、フロア全体に視線を走らせる。
会議室には赤鬼・美代子、黄鬼・賀津子、小鬼たち、そして滝沢と高畑が集まっていた。

「件の業務委託契約、“有限会社ペーパージャック”。これが問題の温床ね」

「社内の複数部門で使われてるけど、誰も担当者を知らない。請求は自動的に来て、承認印も揃ってる。なのに、“誰も何もしてない”ってわけやな」

美代子がぽん、と資料を机に置く。

「この前の“幽霊社員”と繋がっとる可能性、高いと思うわ」

福田笑加が指でくるくる空をなぞる。

「じゃあさ、もしかしてその“会社”自体が、魍魎なの?」

「あり得るわ。今回は“実体のない法人”そのものが魍魎の本体かもしれない」

斎藤恵理が手元のファイルを静かに差し出す。

「この“委託先”は、数年前に倒産処理済み。でも、今も“請求だけ”が届いてる。おそらく、データとしての存在だけが社内に残ってる」

滝沢がボソリと呟く。

「まるで“データの神”だな。存在しないのに信仰されてる……誰かがそれを維持してるってことか」

松永は頷く。

「ええ。その“誰か”をあぶり出しましょう」


調査の末、浮かび上がったのは――

技術部 製造管理課の、一台のプリンタ。

なぜか月に2回、自動で“契約更新通知”を印刷している。
誰も触れていない。タイマーも設定されていない。
けれど、用紙の中にだけ、“生きた何か”の気配がある。

「出るわよ。全員、準備して」

松永の言葉に応じて、鬼たちが鬼化の術式を展開する。

キョン。
ミヨ。
ガーコ。
エミリン。
エリリン。

“浄化の陣”が構築される。


夜、社内の照明が落ちた技術フロア。

プリンタの上に、白い紙が1枚、音もなく出力される。

その用紙に、赤黒い“印”が浮かび上がった瞬間、プリンタ本体が歪み始めた。

「きたわよ――!」

キョンの声とともに、冷気が走る。

プリンタから伸びた紙の帯が、人型に変形する。
無数の請求書、稟議書、契約書でできた巨体。
その中心には、“押印された代表印”が不気味に輝く。

『……印鑑……承認……委託完了……契約不履行ハ……背任ニ等シ……』

「しゃらくせぇわァァァァ!!!」

先手を取ったのはミヨ。
炎を纏った拳で、紙の魍魎の左腕――“発注書”を吹き飛ばす。

「ガー子、右の“領収書”いける!?」

「まっかせなッ!」

雷撃が鋭く走り、魍魎の“領収書腕”が焼き切られる。
だが、切られた紙の欠片からまた“新たな契約”が複製され、再生を始める。

『再稟議……再印刷……再契約……循環ハ止マラナイ……止マッテハイケナイ……』

「っ、コイツ……自分で自分の証拠を再生してんのか!」

キョンが叫ぶ。

「この“ループ構造”を断ち切るには……最初の契約、最古の“原本”を突き止めて破るしかないわ!」

「私に任せてください、姫姉様」

エリリンが高速で魍魎の内部へ“思念潜行”する。
視覚と記録の海を泳ぎ、最も古い契約ファイルを探す。

(見つけた……あった! これは10年前、当時の副本部長が秘密裏に結んだ“架空委託”契約……!)

「姫姉様、今です! この座標に――!」

「了解」

キョンが両手を広げ、氷の槍を無数に生み出す。

「凍結術式・原本貫通――氷鎖穿突(ひょうさせんとつ)!!」

巨大な契約魍魎の胸部、中心にある“本契約書”に直撃。
凍結とともに、再生ループが崩壊していく。

『システム……連結解除……契約消失……データノ神……消去……』

粉雪のように舞い散る、紙の残骸。
魍魎は静かに消えていった。


翌朝。

技術部の定期委託記録が自動削除され、
存在しなかった“ペーパージャック”の契約データが一切合切、跡形もなく消えていた。

滝沢がつぶやく。

「……まるで最初からなかったみたいだな……」

高畑が静かに頷く。

「でも、きっとまた“次の契約”が潜んでる。今の企業って、そういう場所だから」

松永は静かに答える。

「そのたびに浄化する。それが“私たち”の仕事よ」


【To Be Continued…】