第2話 ― 小鬼たちの覚醒と、巻き込まれる者たち ―

午後2時。
午前中の“騒動”は、表向きには「一部社員の体調不良」として片付けられていた。

生産管理部の一角では、松永京子、美代子、賀津子の三人が無言のまま資料を睨んでいた。
その背後には、ひっそりと寄り添うように立つ二人の若い女性――福田笑加と斎藤恵理。

「いやー、アレすごかったですねぇ。もう、“バーンッ!”って感じで!」
「……社内のセキュリティカメラには、どう映っていたんでしょうか」

エミリンとエリリンが、それぞれ福田と斎藤の意識の奥で囁き合う。

『姫姉様の鬼力、さすがだったね〜♡』
『でも、あれでまだ本気じゃない……むしろ抑えてた』

(キョン様……やっぱり只者じゃないわね)
(私たちは……まだ全然役に立ってない)

松永は机の上に置かれた書類をまとめながら、双子を静かに見つめた。

「……あなたたち、“目覚め”は済んでるのね」

福田はきょとんとしつつも笑顔で、

「そりゃもう。あたしなんか、初日から“コレ”なんで♡」

斎藤も淡々と続ける。

「自覚は、あります。私たちが“人間だけではない”ことも……“使命”があることも」

三人の鬼は顔を見合わせた。
かつて地獄界で仕えていた小鬼たち――その覚醒の兆しは、確かに始まっていた。


一方、その頃。

システム部の薄暗い一角。
滝沢直樹は、キーボードを叩きながら冷や汗をかいていた。

「な、なんだこれは……社員データベースのログが……勝手に増殖してる?」

画面上に現れたのは、存在しないはずの“アカウント群”。
幽霊のように社員IDが登録され、実体のない残業記録が付けられている。

「ログイン元が……内線端末? しかも、地下?!」

ざわ……っと全身を粟立たせる嫌な感覚。
その時、不意に背後から声がした。

「滝沢さ〜ん、エミリンの使いっ走りくん♡元気してる?」

振り返ると福田笑加。
いつものように無邪気な顔で立っていたが、滝沢にはその笑顔が何より怖い。

「お、おい福田……あんた、あの昨日のは何なんだよ……炎とか、雷とか……あれはCG? ドローン? いやもう意味わかんねぇよ!」

「あー、うるさいうるさい。黙ってお仕事してくれればいいの♡ ほら、このUSBに“変なログ”入ってるから消して、ね?」

バチッとウィンクする福田の指先が、わずかに赤く光った気がした。

「……はぁ、わかったよ……やるよ、やりゃあいいんだろ……」

だが、滝沢の指が触れた瞬間、USBから発せられた黒いもやが彼の端末に“喰らい付く”。

「なっ……!?」

画面の中から“何か”が覗いている。
いや、“覗かれて”いる。

「くそっ……やっぱりコイツ、生きてる……!」

一瞬、デスク上に赤黒い手のようなものが現れる。
次の瞬間、福田が前に出る。

「鬼化ッ!!」

小柄な彼女の背後に、緑色の光をまとった“姉鬼”の姿が浮かび上がる。

「エミリンッ!?」

『ふっふ〜ん、さっそく出番だねぇ♡ じゃ、軽〜くお仕置きいきまーす!』

エミリンは電光石火で右手を振るい、魍魎の残滓を“つまみ上げる”ようにして引きずり出す。

「ちょいと失礼っ♡ アンタ、何様だっての♡ 人の記録に好き勝手しやがって〜」

青黒い影が悲鳴のような音を立てて揺らぎ、そのままUSBに封じられる。

滝沢は腰を抜かして呟いた。

「……マジで、鬼なんだな……お前……」

福田は肩をすくめて笑った。

「いまさら? エミリン舐めたら、痛い目みるよ♡」


一方、総務課の別室。

斎藤恵理は黙々とコピーを取っていたが、ふと足を止めた。

(……視える。思念の断片が)

スキャンされたPDFデータの中に、確かに“おかしな気配”が潜んでいる。

『出るわよ、妹ちゃん』

「……ええ」

彼女の意識の奥、エリリンが目を開ける。

データの行間に隠されていたのは、改ざんされた決算資料。
しかも、“作った”のは社外ではなく、社内の誰か――しかも、部長クラス。

「これ、根が深いわね」

エリリンは静かに両手を合わせ、念を込める。

「思念読解・開花」

PDFの文字がにじみ、社員たちの“嘘”がそのまま映像として浮かび上がる。
“仕方なく”“命令だった”“空気を読んだ”――
どの言葉も、自分を守るための虚飾。

(人は、時に自分を守るために、地獄よりも深い闇を選ぶ)

彼女は静かに息を吐いた。

『姫姉様に報告しないと。これ、きっと、上層に繋がってる』


午後5時。

管理部の小会議室に、鬼たちと人間たちが集まった。

「今日だけで3件の不正と、実体化した魍魎が2体……」

松永京子がメガネを外し、静かにテーブルに置く。

「情報も増えてきた。次は、“どこから腐っているか”を探る」

「組織図から見て、経理と技術部の間に妙なリンクがあるわ」

美代子が地図を広げる。

「そやそや、ガー子の“雷ピリピリセンサー”にも来とったで」

「呼び方」

「ええやん、ノリでやんか〜」

そこに、福田と斎藤も加わる。

「姫姉様、USBの魍魎、完全に封じました〜♡」
「決算改ざんの痕跡、まとめました。ご確認を」

滝沢が壁にもたれてボソッと呟いた。

「まるで戦隊モノだな……鬼戦隊とか、そういう」

高畑がくすっと笑う。

「そうね。でも、この会社……本当に“地獄”より深いかもしれないわ」

松永は目を細める。

「だったら、私たちが浄化する。鬼として、社員として――母としても、ね」


【To Be Continued…】